タービン・バーの使い回しのニュースについて感じること

投稿日:2017年7月4日

カテゴリ:スタッフブログ

先日、「歯科医院で使われているタービンやバーなど、口の中に入り、唾液や血液に侵される機会が滅菌されず、使い回しされている」とのニュースが報道されましたが、そのことについて、自分の思うことを書きます。

 

歯科が注目される、そして叩かれる素晴らしいチャンス

今回のニュースで、どのくらいの国民が注目したかはわかりませんが、以前よりも歯科への注目度が増したのではないでしょうか?自分は、歯科の重要性が、もっと国民に広がるべきだと思っているので(ワイドショーやニュースで政治などニュースを報道するなら、その半分ぐらいは、歯科の大切さを伝える時間に費やすべきと思っています)、このようなニュースは大歓迎です。さらに、叩かれるなら、なおさら良いと思っています。なぜなら、叩かれなければ、良くならないから。(後述しますが、日本の歯科を取り囲む環境はかなり劣悪なものなのです。)

昨今、「国民医療費の削減問題」や「平均寿命と健康寿命との差」などが話題に上がっていますが、自分は、これらの問題の多くの部分を「歯科」が解決できると考えています。

それだけ、歯科は大切であり、これから良くならなければならないのです。

 

なぜ、滅菌せずに使い回し? 問題は国民健康保険の報酬にあり

今回のニュースで不公平なのは、「なぜこんなことが起きているのか」という考察が少ないという点です。ニュースを書いた方なりの考察をぜひお聞きしたいものです。

なので、ここでは、自分の推測を書きます。

今回のようなことが起きている根本は「国民健康保険の報酬の少なさ」にあると思います。歯科の国民健康保険の報酬の少なさは、多くの歯科医師が経営上、頭を抱える大きな問題点です。当院でも行っているマイクロスコープを用いた治療などは、多くの時間を費やすため、健康保険のルールに従って行っていては、経営赤字となり、歯科医院の運営は非常に厳しくなります。そのため、健康保険では、きちんとした治療を行うことが困難になります。(不可能とは言っていません。なぜなら、歯科医師の中には、赤字覚悟で保険診療内で素晴らしい治療を行っている方もおられるからです。しかし、非常に少ないでしょう)

この良い例が根管治療です。日本の根管治療の成功率は実は50%と言われており、他の先進国と比較し、非常に低いのです。しかし、それも仕方がないこと。なぜなら、根管治療の国民健康保険の報酬は、それらの先進国を比較すると、約20分の1なのです。そのため、日本の保険診療では、ラバーダムを用いた無菌的な環境下での根管治療やマイクロスコープを用いた根管治療が、しにくい状況にあるのです。この結果、根管治療が失敗に終わり、多くの方が悩まれています。当院でも、他院で受けた根管治療で悩まれている患者さんが後を絶ちません。

では、この国民健康保険の報酬の低さが、なぜ器具を滅菌しないことに繋がるのでしょうか?

歯科医院を経営していく上で、保険診療では、短い時間で多くの患者さんの治療をすることが求められます。そのため、一人一人の患者さんごとに器具をいちいち変えていては、時間のロスになります。そのため、器具の交換ができないのでしょう。

また、器具が高価なことの要因の一つでしょう。歯を削る際に使うタービンという器具。お値段が10万円から20万円とかなり高額です。この値段のタービンを、多くの患者さんを見ることが求められる保険診療内で一人一人の患者さんに使うとなると、相当の金額になります。

そして、人権費もかかります。歯科医院を経営する上で、マンパワーは必須。当然、滅菌係も必要です。しかし、保険診療中心の病院では、人件費にそこまで多くを割くことは難しい現状にあると思います。

このように、歯科において、国民健康保険の報酬の低さが、つまり、劣悪な環境が、医療の基本である「器具の滅菌」へも影響していると考えています。

 

今回のようなチャンスをきっかけに

今回は「器具の滅菌」についてでしたが、このような歯科の現実についての報道が多くされることを期待しています。この他にも、報道する価値のあることがたくさんあると思うので、記者のみなさん、歯科の良くない点、悪い現状をもっともっと報道してください。そして、歯科を叩いてください。このバッシングがなければ、歯科は良くなりません。

自分は、歯科がもっと良くなればと思い、先輩とたくさんの討論を行ってきましたが、言われることは「歯科を変えたいなら、政治家になれ」ということです。でも、これは間違っていると思う。歯科を変えるのは、「政治家」ではない、自分も含めた「歯科医療従事者」だと思う。自分たちが、国民のために懸命にがんばることが、国民を味方につける、そして、多くの国民が歯科の重要性について感じ、行動し始めたときに、「政治家」は歯科を変えざるを得ない状況が生まれるのではないかと、考えています。

今回の報道が、歯科における環境を好転させる「きっかけ」になることを期待しています。

柳沢歯科医院